公開日 2022年07月29日

 島根大学地域包括ケア教育研究センターの安部孝文助教、磯村実センター長、矢野彰三副センター長らの研究チームは、島根県邑南町役場保健課との共同研究として集団健康診査(健診)のデータを分析したところ、高齢者の咀嚼機能の低さや義歯の不使用が、高血圧の危険性を高めることを明らかにしました。
 高齢者の歯の喪失は、日常的な食品の選択に影響し、野菜不足といった栄養バランスの悪化を招く可能性があります。今回の研究は、2016年6-7月に邑南町で実施された集団健診に参加した551人の65歳以上の高齢者のデータ分析を行いました。まず、15秒間グミを咀嚼した後、その分割数によって咀嚼機能を調べたところ、分割数の少ない高齢者(分割数19個以下を咀嚼機能の低下と区分)は、高血圧を有する危険性が高いことがわかりました(図1)。また、歯の本数では、28歯ある高齢者に比べて、喪失した者(0-19歯または20-27歯)は、義歯を使用していない場合に高血圧を有する危険性が高くなりました(図2)。この結果は、高齢者の歯の喪失に対して、義歯による適切な治療が行われること、また口腔ケアによって咀嚼機能が良好に保たれるようにする必要性を示しています。新型コロナウイルスの蔓延に伴い、歯科医院への受診を控えている方もおられるかもしれませんが、自宅での口腔ケアとあわせて定期的な受診により、口腔機能の維持・改善を行うことが大切です。

図1咀嚼機能と高血圧図2義歯使用と高血圧

 

 この成果は、高血圧専門のトップジャーナルの一つである日本高血圧学会の学術英文誌「Hypertension Research」の特集号に掲載されています(2022年6月23日受理、7月22日付けで、オンライン上で有料公開)。

【論 文】Reduced masticatory performance and not using dentures are associated with hypertension in older adults with tooth loss: the Shimane CoHRE study
【著 者】Takafumi Abe, Kazumichi Tominaga, Yuichi Ando, Tsuyoshi Hamano, Shozo Yano, Minoru Isomura, Toru Nabika
【掲載誌】Hypertension Research
【論文URL】https://www.nature.com/articles/s41440-022-00976-3

 邑南町役場保健課は、全国に先駆けて集団健診において歯科相談のなかで歯の健康チェックを行っており、今回はその共同研究の一部として実施しています。調査研究は、文部科学省等の補助を受けて行われました。

【お問合せ先】
島根大学 研究学術情報本部 地域包括ケア教育研究センター
助教 安部 孝文
電話:0853-20-2586